「空落ちる果実」(天空降落的果实)第一次写全日文的小说~~

空落(そらお)ちる果実(かじつ)

それは幼い頃の記憶。

薄暗い部屋、錆びた鉄の匂いと柔らかな髪の触感。

「エヴェン、ごめん、ごめんなさい。」

繰り返される言葉。

それは一体、誰の声…

今にして思えば、僕が八歳までの記憶はどうも曖昧らしい。親父の話によると、2歳までは隣町の養護施設に預かってもらっていた。そして、親父が地主であるアパートが建設され、やっと僕をお家まで連れ戻すことができたらしい。

しかし、僕には、施設にいた記憶がない。まあ、まだ、赤ん坊だったからだろう。

そして、3階建てアパートの3階の一室で、親父と母との、3人暮らしが始まったという。

家には、母の写真は一枚もない。だから僕は、8歳の時に亡くなった母の顔を、覚えてはいない。母はどのような人だったのかも、はっきり覚えていない。

ただ、時々夢に浮かぶ女性の泣き顔は、母のものなのだと、思う…

親父までも亡くなった今、確かめようともしようがないんだ。

そんなわけありの家庭に生まれたにもかかわらず、僕は今、健やかに生活している。

そう、あの騒がしい連中の事情に巻き込まれるまでは。

天使は空から舞い降りるはずがない

「は、は…ぁ…」

僕は逃げている。

何故逃げているのかは分からない。

ただ息切れそうなほど、ひたすら足の動きを繰り返している。

僕の雑な足音以外、物音はしない。それにも拘らず、確かに不気味な何かが追ってきている。

周りは暗い。何度も通った道だ。街灯の位置は当然覚えている。しかし、記憶のところからは何も映らない。街灯所か、窓ガラス越しの明りさえ見当たらない。まるで知らない間に、未知の迷宮にでも迷い込んでしまったみたいだ。

しかし、僕は当然リアリストで、まさかそんなばかげたことが起きているとは思わない。

それても、歩みを緩めるつもりはない。緩めたら、何が恐ろしいことが起こるような気がしたからだ。

息が荒い。もし隣に誰がいたら、きっと死ぬほど恥ずかしい。

「逃げ…なきゃ…」

正にその考えだけが自分の動きを支配している。

暗いなのに、なぜか壁が無限に広がっていくように見える。

どのぐらい走ったのか分からない。

この道はどこまで続くのかも分からない。

今まで信じてきた理全てがこのまま崩壊していくなのかと思ったその時。

「ここだよ」

頭に声が響いた。

そして、視線を回すと、ヒカリが見えてきた。

あの曲がり角を曲がれば、きっと。

僕は勢いでヒカリの世界に飛び込んだ。

気がつけば、目の前に現れたのが、いつもの芝生公園の噴水広場。

先まで暗闇に包まれた空間が一気に真昼間と引き換えたようだ。

いいえ、違う。

太陽の光じゃない。

噴水の上に、何かがいる。

それが放つヒカリがあまりにも強くて、回りの全てに光明を与えてくれた。

僕は息を呑んだ。何かを口から出そうとしたが、言葉にできず、ただ、呆然と立ち尽くしていた。

それは「人」なのか?

風は感じていないが、やわらかくなびく髪、華奢な背中、細い腕首。

強い光の中、僕はつい目を細めてしまう。それでも、必死にこの光景を目に留めようとした。

地面が揺れるように感じたのはその時だった。

急に足場が悪くなったせいか、体が平衡を失い、周りの風景も突然儚く見えた。

「駄目だ!僕はまだ聞いていない。」

君は…「天使」なのか。

「痛えっ…」

急に尻餅を食われた。

目を開けると、仁王立ちのまま僕を見下ろすツインテールの女の子が嫌そうに口を開いた。

「早く支度しなさい。まさか今日から新学期だということを忘れてはいないよね。」

「イララ、お前、もうちょっと穏便な起こし方あるんだろう」

こいつはイライヤ・フォン、僕とは8年以上の付き合いになる、所謂幼馴染だ。端正な顔立ちに、腰の下まで伸びる長い黒髪が二束に結んでいる、一見淑やかでお嬢さんっぽいだが、実はとんでもない暴力女だ。制服のミニスカートの下から見えるすらっとした足が、正に僕をベッドから蹴り落とした元凶なのである。

「お前とは何?人前では『僕』とか使ってるくせに、あたしのこと『お前』って呼ぶんだ。」

「馬鹿野郎!自分を遠慮なく蹴るようなヤツに遠慮なんか必要もん…っ痛ぇ!」

枕を真正面から喰らわれた。

やはりどこまでも暴力女だ。

イララがあまりにも睨んでくるので、僕はさっさと支度を済ませた。

今日から二学期と言っても、始業式だけだ。うちの学校は始業式の出席なんて強制しない。って言うより、一週間以上無断欠勤したって、何も問われないほど、ゆっとりな校風が有名だ。しかし、皆勤した生徒に対して、学費全免だけではなく、かなりの額の奨学金も出されている。

もちろん父親が冒険家で、母親が弁護士のイララは金に困っているわけがない。ただ、どんなルールも順守したがる彼女だから、始業式は出席するに決まってる。

そして僕は、金目当て。

独り身の僕には、金が必要不可欠なもの。

アパートの家賃だけで生活していくのはやはり厳しい。現に、このアパートは僕と管理人のタマンサさん以外、誰も入居していない。このままだと、先行きが不安だし、タマンサさんの給料すら支払えなくなる。本人は身寄りのない自分をこのアパートに安居させるだけで助かってるから、給料は要らないって言うけど、親父が死んでからずっと僕の面倒を見てくれているタマンサさんを不安な老後をさせるわけには行かないんだ。

イララに制服のネクタイを引っ張られながらアパートを出ると、門前に止まっている「引越しの蝙蝠」のトラックが目を引いた。

終に新しい入居者が来るのか。

しかし、トラックの周りにいるのは蝙蝠のプリント入りのポロシャツを着ている業者だけで、入居者らしき人物は見当たらない。

「ええ、このボロアパートなんかを選ぶ変人もいるものね。」

「ボロって、築15年も経ていないぞ。」

「もう15年になるでしょう」

言葉を詰まらせた僕。入居者の姿を探すことを諦めて、その場を去った。

「あれが例の…」

「うん、あの子なら、大丈夫ような気がするよ。」

トラックの陰から出た二人組み。

黒い背広の長身の青年と金髪の少年。

エヴェンとイララの離れていく後姿を、静かな眼差しで見送っていた。

きっと僕の日常はもう戻ってこない。

「これからはよろしくね。」

少年ははにかんで笑いながら、僕の首あたりに視線を向いた。

君は…誰?

「エヴェン、何してるの?早く逃げなさい!」

どうしてこんな強張った表情をする?お前らしくない。

タスケテ…

僕は一体何なんだ!

「これはきっと運命だよ。まさかあの人の子に会えるなんて。」

何をする?やめろ!

「もう誰もいないの…」

何のこと?

血まみれの部屋で、少女は薄い笑み浮かべ、悲しい目で僕を見ている。

体が冷えてきたな。感覚が失っていく。このままじゃ、僕は死ぬだろう。

もうイララと些細なことで口喧嘩したりできないだろう。

カルガとトレアはまた「吸血鬼」なんかで喧嘩になってるよ、早く止めなきゃ…

「早く、遅刻しちゃうよ!」

「今行く…」

きっと、全部夢なんだ。僕はもう何も失いたくないんだ。

「ほら、聞こえてるでしょう。破滅が始まる…」

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